豊岡市内など但馬全域を舞台に9月11日に開幕する「豊岡演劇祭2025」。23日までの期間中、公式プログラム21演目と、公募のフリンジプログラム(約65団体参加)が予定されています。兵庫県の4分の1、東京都の総面積に匹敵する広大なエリアで行われる演劇祭をゆったりと楽しむには、ホテルを基点とした観劇プランが欠かせません。但馬地域で、「フェアフィールド・バイ・マリオット」兵庫神鍋高原(豊岡市)と兵庫但馬やぶ(養父市)の宿泊特化型ホテルを展開するフェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクト マーケティング部長中本陽子氏と、県立芸術文化観光専門職大学の学生4人が、地域経済活性化と観光の役割▽ホテルと地域の共生▽点と線をつなぐ観光戦略―などについて考えました。
◆豊岡演劇祭
https://toyooka-theaterfestival.jp/
■自己紹介
宇野さん
4年生で観光専攻です。今はインバウンドや若者をどうやって地方に運んでくるのかに興味があり、SNSを活用したマーケティングやイベントの企画立案などをやってます。千葉県出身。21歳
橋本さん
4年生で観光専攻です。大学入学前から観光や旅行に携わる仕事に就きたいと思っていました。都市部に集中する観光を地方に分散させるには、どういったアクションが必要なのかなどを考えています。卒論では、サッカーJ1チームを豊岡市に誕生させるにはどうしたらいいのか、をテーマに考察してます。愛知県出身。21歳。
堀池さん
3年生で、芸術文化専攻です。幼少期からバレエをやっており、自分が表に出るというよりは舞台を支える側に興味があります。将来はイベントやコンサートプロモーター的な立ち位置で、企画立案やキャスティングなどができたらいいなと思ってます。京都府出身。20歳。
芝さん
3年生で、観光専攻です。地域創生に取り組みたいと考えており、その手段としての観光に興味があります。住みやすい町、いい町にするために、観光をどう使っていくのか。住みやすい町を追求しいくために、若者の居場所づくりに取り組んでいます。愛媛県出身。20歳。
中本さん
大学を卒業してからずっとホテル業界で働いています。ブライダルやコンシェルジュ、宿泊予約、インバウンドマーケティングなど、これまでいろんな経験を重ねてきました。今は、道の駅プロジェクトでマーケティングを担当しています。
■新しい旅のスタイル
藤原
高級イメージが強いマリオットが、どうして全国の道の駅近くにホテルを作るのか。このコンセプトに驚いたのですが。
中本さん
このプロジェクトは、道の駅の近くにマリオットのブランドを借りてホテルを建てるもので、あえてレストランや大浴場、温泉を持たず、宿泊特化型のホテルになっています。ホテルを拠点に、例えば道の駅や地元の居酒屋、郷土料理店などを利用してもらって、地域の人たちとの触れ合いを楽しんでもらいたい、そういった新しい旅のスタイルを提案することがホテルのコンセプトです。
道の駅の役割は大きく2つあると思ってます。地域の人たちの交流拠点であり、地域の情報発信の拠点でもあることなんです。農家のおばあちゃんが採れたての野菜や、作りたての商品を届けにきます。民間、自治体など運営主体はさまざまですが、いろんなイベントも開催されている。また、観光案内所が併設されているところもあります。本当にその地域を楽しむためのスポットとして、最適な場所になってきているんです。
■未知なるニッポンをクエストしよう
中本さん
地域経済活性化ってよく言われますが、どういうことだと思いますか?
宇野さん
気にいった地方の商品をお取り寄せで購入してもらうだけでなく、宿泊を前提として、地域にお金が落ちるシステムをつくること、それが地域経済を活性化させる一番の打ち手だと考えます。
橋本さん
来訪者がたくさんいる、人を呼び込む、住んでもらう施策がとても大切ではないでしょうか。
中本さん
人とお金を活性化させる、とても大切なことですよね。有名観光地って人もたくさん来て、お金もたくさん落としてもらってすごいじゃないですか。ただ一方で、オーバーツーリズムが社会問題化しています。
繁忙期は一定、集客はあるのですが、閑散期になかなか人を集めるのが難しい。1年を通して、その地域を楽しんでもらえる、人とお金が最適に回ることが地域経済活性化に大事な視点だと考えます。但馬地域でも夏は海水浴、冬はカニのシーズンで多くの観光客が訪れます。私たちのホテルがある神鍋高原も春から夏のグリーンシーズンは気球やハイキング、サイクリング、冬はスキーリゾートになっています。但馬やぶでは八鹿豚や朝倉山椒など、食においても年中楽しめる魅力があります。観光客が外から来てくれるだけではなくて、地域の人々と一緒に取り組んでいきたい。そんな思いを強く抱いています。
そんな中で但馬地域の閑散期(9月)に行われる豊岡演劇祭にはとても期待を寄せています。但馬地域を舞台にアジア最大の演劇祭が開催され、県内外から多くの人が集まります。神社やスキー場跡、砂浜などが劇場になるという特徴あるイベントで、「但馬」というエリアを知ってもらえる機会になる。とても大事なことだと感じています。
私たちのホテルのコンセプトは「未知なるニッポンをクエストしよう」なんです。どうやってクエストしようかと考えた時に、この豊岡演劇祭の取り組みは、「豊岡(但馬)のまちって、こんなところもあるんですよ」と新しい切り口を提案しているように感じるんです。身近な自然や景観などいつも見ている場所でも、違う視点から見ることで、日常の中の隠れた面白さや価値、魅力を再発見することができますよね。このイベントに学ぶことも多くあるし、いろいろな楽しみ方がすごく詰まっていると思っています。ぜひ、一緒に取り組んでいきたいです。
■演劇祭は成長していると感じますか?
藤原
豊岡演劇祭ですが、今年のテーマは「演(えん)、縁(えん)、宴(えん)。」です。2020年に始まり、今年で5回目となりますが、その一番近くで関わってきた学生の視点から、演劇祭の成長やまちの変化を感じますか?
橋本さん
私たちが1年生の頃より、年々いろんな人が見に来てくれるようになったと感じています。始まった頃はフィールドワーク(実習)していても、演劇祭の来場者に感想を聞いても、あまり理解されていないのではと感じていましたが、最近は演劇内容や取り組みなどを多角的に理解してくれて「こういう点が良かったね」といった感想を口にする方が増えていると思います。
宇野さん
毎年毎年、イベントの中身も成長しているし、知名度も高まってきていると実感しています。ただ、近隣住民の人たちとさらなるコミュニケーションを図れたら、演劇祭そのものが地域になじんでいけるのではないかとは思います。育てるのもつぶすのも自分(学生)たち次第なところがあるので、このまま頑張れば、もっともっと大きくなっていく可能性は感じます。
堀池さん
演劇祭期間中の土日祝の夜に大道芸があったり、飲食・小物ブースなどが集まったりするイベント「ナイトマーケット」が豊岡市役所やJR江原駅前で開催されるんです。観劇でのお客さんより、最近は地域の親子連れなどが増えて、参加しやすい雰囲気が作れていると思います。1年生の頃は、演劇が披露される会場ごとには盛り上がっていたとは思いますが、市街地全体としてどうかと言われると「面的」には厳しいものがありました。しかし昨年は、市街地、城崎、竹野、但東、日高、それぞれのまちで盛り上がりが少しずつ広がっていると感じました。エリアが広く、交通事情に課題がある中で、点と点を線に、そして面にしていく工夫が加われば、地域と学生、観客が三位一体となり、もっともっと成長するイベントになると感じています。
芝さん
私は豊岡演劇祭をまったく知らずにこの大学に入学しました。年々認知が広がっていると感じます。
■学生考案! マリオットホテル宿泊拠点の観劇ツアー
藤原
神戸新聞社では、芸術文化観光専門職大学の学生と「フェアフィールド・バイ・マリオット兵庫神鍋高原」を宿泊拠点とする1泊2日の観劇ツアーを企画しました。演劇祭をさらに盛り上げ、持続可能なイベントにしていくためには、ホテルを活用した文化体験の創出やホテルと演劇祭の連携強化などが不可欠だと考えています。今後、どのような取り組みをしていけば良いでしょうか?
観劇ツアーお申し込みはこちら (※現在応募多数につき、締切。キャンセル待ちです)
https://kpt.jp/plan-02/250177
宇野さん
城崎温泉に泊まると、街中でフリンジや大道芸をやっていたりするので、演劇祭の雰囲気を感じることはできますが、少し郊外のホテルでは、昼間目にした演劇祭の余韻が途切れてしまうのが残念です。ホテルのロビースペースを活用して、演劇祭関連のトークイベントやワークショップを開催してみてはどうでしょうか。
堀池さん
ホテルのロビーとかで演劇祭のお薦め動画を流すとかはできないでしょうか。演劇祭ウイークみたいなイベント週間を作り、その期間だけ、演劇祭に少し寄せた景観にするのも面白いと思います。
中本さん
ブランドレギュレーションがあり、ずっとは難しいんですけど、一定期間なら可能ではないかと考えています。岐阜県郡上市のホテルでも郡上踊りに来てくれた宿泊者に楽しんでもらえる仕掛けをしたケースもありました。
宇野さん
豊岡の市街地や江原などに演劇祭の期間中、交流スペース「ミーティングスポット」が開催されるんです。脚本家やスタッフなどが出演したプレ、アフタートークのほか、エグゼクティブな方を呼んで演劇祭の方針や理念をしゃべる会などが行われています。こうしたスペースを利用し、ホテルと地域との共生や地域経済活性化と観光の役割などを議論しても面白いのではないでしょうか。
中本さん
そうですね。さらにプラスアルファでエリアの要素を加えると、演劇祭と地域の食や文化を組み合わせたイベントが考えられます。ローカルの食べ物や飲み物を口にしながら、演劇について語り合う場を作ることで、地域の魅力を総合的に発信できるのではないかと思います。
藤原
そうですね。ホテルを通じて但馬を知る、但馬を楽しむ。その一歩先に移住、暮らすという概念が出てきてもいいのではないでしょうか。それを牽引する入り口(きっかけ)が豊岡演劇祭であれば、なおいい形だと思います。
宇野さん
そこまで回って初めて、芸術文化活動って呼べるだろうなという感じがします。そこまで行き着いて卒業したい、そんな気持ちが強くあります。
■宿泊特化型「フェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅ホテル」
積水ハウス(大阪市)と米ホテル大手のマリオット・インタナーショナルが組んで手掛ける。両社は訪日客(インバウンド)需要などによる地方の活性化を掲げ、2020年から道の駅周辺でホテルチェーンを展開。各地域独自の文化を体験し、人々との交流を楽しんでほしいと、あえてシンプルなホテルにこだわった。宿15730円(税サ込)から(1室大人2名まで。小学生以下のお子様は大人1名につき1名添い寝無料)。兵庫県内は神鍋高原、養父、東浦、福良の4カ所にある。全国には現在、14道府県で29施設、計約2300室が開業済み。
■対談メンバー
フェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクト
マーケティング部長 中本 陽子さん
兵庫県立芸術文化観光専門職大学 4年生 宇野 心花さん
4年生 橋本 夏宝さん
3年生 堀池 千琴さん
3年生 芝 智寿さん
司会 神戸新聞社DX推進局長 藤原 学
フェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクト
神戸新聞社DX推進局デジタルイノベーション部
TEL:078-362-7329
Mail:sales-ad@kobe-np.co.jp