アジア最大規模へ成長した豊岡演劇祭は、但馬全体を舞台に広域的なにぎわいを生み出しています。しかし、この熱量を一過性で終わらせず、持続可能な地域活性化やビジネスの収益化、観光や移住へどうつなげるかが課題です。回遊性向上や観光ツーリズムの可能性について、各分野のキーパーソンが語り合いました。
本日は「但馬をもっと面白くするには?」をテーマに、地域でビジネスを展開される皆様にお集まりいただきました。まずはご自身の歩みと、現在の取り組みについてお聞かせください。
私は20年以上お酒の業界に携わってきましたが、小売、卸から製造まで一貫して経験してきた、業界内でも少し珍しいキャリアを持っています。弊社が養父市の大屋町で新しくウイスキー工場を立ち上げる流れになり、工場長としてこの地へ移住してきました。但馬初の蒸溜所として2023年に製造を開始し、氷ノ山系の豊かな沢水と、日本では珍しいイタリア製のポットスチル(蒸留器)を使用しています。25年8月から始まった工場見学ツアーも大変好評で、26年12月には皆様待望のファーストリリースウイスキーのお披露目を予定しております。

弊社は代々酒造りを家業としており、おかげさまで創業300周年の節目を迎えました。私は11代目の社長になります。弊社の取り組みとしては、酒造りを行わない夏場や熟成期間中も含めた通年での蔵見学ツアーを実施しています。直売店では蔵元限定酒を充実させているほか、お酒が飲めない方やご興味のないバスツアーのお客様向けに、地元の食材を使ったオリジナルのお菓子や珍味、お漬物なども自社開発しています。毎年春と秋には「蔵祭り」を開催し、毎回4000人近くのお客様に遠方からお越しいただいています。

「フェアフィールド・バイ・マリオット・道の駅プロジェクト」で、全国29カ所のホテルのマーケティングを担当しています。積水ハウスとマリオット・インターナショナルが共同で手掛けるこのプロジェクトは、有名観光地だけでなく、まだ全国に知られていない地域に光を当て、地元の方々と魅力を再発見・発信・編集していく取り組みです。あえてホテル内にレストランなどの飲食施設を設けず、宿泊されたお客様には積極的にまちの飲食店へ足を運んでいただく「宿泊特化型」のスタイルをとっています。地域のお店で食事をして地元の人と交流する接点を増やすことで、地域経済に直接貢献する仕組みです。但馬では「兵庫神鍋高原」と「兵庫但馬やぶ」の2カ所があり、豊岡演劇祭をはじめとする広域なイベントを周遊・満喫するための絶好の滞在拠点として機能させています。近年では音声コンテンツ、ポッドキャスト番組「旅のセレンディピティ」を開設し、勝本様や福本様のような地域の熱いキーマンのインタビュー記事や音声を全国へ届ける発信にも力を入れています。

私の専門は日本近世史ですが、実は大学院を修了後に大手コンビニチェーンへ就職し、加盟店オーナー様の経営改善に携わっていたという経歴を持っています。金沢での10年間の勤務を経て研究の世界へ戻り、芸術文化観光専門職大学へ赴任しました。大学では歴史学や観光実習などを担当し、単に歴史を学ぶだけでなく「地域の歴史や文化という素材を、どう魅力的な観光コンテンツに変え、いかにして消費者に届く『商品』へと昇華させるか」を研究・実践しています。

演劇祭の報告書からは「二次交通の不便さ」「宿泊・飲食情報のミスマッチ」「地域住民との温度差」という3つの大きな課題が浮き彫りになっています。これらを克服し、但馬全体の回遊性を高めるためのアイデアをお聞かせください。

挙げられた3つの課題は、まさに私どもホテルにとっても毎日直面している非常に切実なテーマです。特に二次交通に関しては、コロナ禍以降のドライバー不足や路線の廃止も重なり、駅から先の移動手段がないという問題は深刻化しています。しかし、単に物理的な交通手段を増やすだけでなく「心理的ハードルを下げる工夫」が不可欠だと感じています。例えば、演劇の演目や特定の会場のファンが事前につながれるオンラインコミュニティーをあらかじめ形成しておけば、「みんなで一緒にグループで現地に行こう」という移動の動機や安心感が生まれます。また飲食のミスマッチについても、私が昨年、観劇後に宿でたまたま居合わせた方とアフタートークで盛り上がった時のように、観劇後の高揚感やインプットをそのまま共有・アウトプットできる「余韻を楽しむ夜の交流場」をホテルや地域の空間で演出できれば、夜の消費機会の創出と滞在満足度の向上に大きく貢献できるはずです。

交通課題に関しては、演劇祭の会場が広く分散している現実があるため、期間ごとに特定の駅周辺や主要エリアへ会場を意図的に集約させるのが現実的な一手だと思います。町民バスや自治体バスの休日運行の調整、JRや路線バスとの接続のスムーズ化も必須です。東北新幹線などで実証されているような、乗客と一緒に貨物を運ぶ「貨客混載」の仕組みを北近畿にも導入し、交通インフラ自体の持続可能性を高める視点も必要でしょう。

弊社では、運転手の方にだけ限定のオリジナルノベルティをプレゼントするなど、「お酒が飲めなくてもドライバーとして参加して良かった」と思っていただけるような体験設計を行っています。また広大な但馬を周遊していただくためには、やはり観光バスとのマッチング施策を強化していくことが不可欠です。飲食店との連携においては、周辺のカフェの店主さんと直接顔を合わせてお客様を相互に案内し合うような草の根の協力体制をつくっています。さらに地域住民との温度差を解消するため、養父市民のツアー参加費を半額に設定いたしました。まずは足元の地元の方々に「一番のファン・応援者」になってもらう取り組みを徹底しています。

外から来た人たちだけで盛り上がっている状態では、地元の方々に「自分たちの演劇祭だ」と思っていただくことはできません。私たちが支援する「但東さいさい」では、今年は学生たちに幕間パフォーマンスの企画や、地元企業様から提供された協賛品を当てる「くじ引き」の司会運営をすべて任せました。単なるお手伝いではなく、企画の核心部分に参画して「自分たちの祭り」として汗をかいたからこそ、愛着と熱量が生まれます。地域住民や学生、地元企業が自分なりの関わり方で参画できる「余白」をつくることが、温度差を解消する鍵となります。

演劇祭に訪れた観光客に、ぜひ現地で体験・訪問してほしい皆様の「但馬の推しスポット・推し要素」を教えてください。
香美町にある「大乗寺(だいじょうじ)」を強くお薦めします。ここは江戸時代の天才絵師・円山応挙とその弟子たちが描いた襖絵が164点も残されており、そのすべてが重要文化財に指定されているという奇跡のようなお寺です。
私は生活感あふれる地元スポットとして、スーパーの「マルワ」さんと農産物直売所の「たじまんま」さんを激推しします!セコガニやカキ、立派な魚介類がマルワさんでは信じられないほどの破格で並んでいて、赴任当初は心底感動しました。「たじまんま」でも、八代オクラをはじめ、採れたての新鮮すぎる地場野菜が何の気取りもなく無造作に売られています。
但馬の誇る「海」の素晴らしさです!プールのように透き通った透明度を誇り、遠浅の海岸が多いのでお子様連れでも安心して楽しめます。養父市に目を向けると、季節は限られますが、夏夜に幻想的に飛び交う「ホタル」の群れですね。

皆様の熱い”推し”を聞いて、マーケティング担当としてそのすべてをつなぐ贅沢な周遊モデルプランをご提案したくなりました! まず「マルワ」さんで新鮮な極上魚介を買い、「たじまんま」さんで名物の採れたて野菜を手に入れます。それを持ってフェアフィールドのロビーにお越しいただき、レンジで少し蒸したり調理したりしながら、お客様同士でお酒を片手に最高の歓談タイムを過ごしていただく。翌朝は但馬の透き通る綺麗な海でリフレッシュし、帰路には大乗寺で本物の江戸文化に触れ、最後に香住鶴さん、もしくは養父蒸溜所さんの日本酒かウイスキーを選び、酒蔵や蒸溜所の見学と試飲を楽しんで、お土産を買って帰る―。但馬の魅力を120%網羅する完璧で贅沢な周遊ルートです!私たちのホテルでは「豊岡演劇祭 2026」と連携して期間限定の「特別宿泊プラン」を販売します(27日まで)。プラン内容として、片桐はいりさんと六角精児さんらが出演する、聴く演劇「失踪予行練習の旅」を楽しめる限定配布の二次元コードカードをご用意しています。
最後に、持続可能な地域づくりに向けて、行政・企業・地域住民が今後どのように手を取り合っていくべきか、それぞれのビジョンをお聞かせください。
持続可能な地域をつくるためには、行政や個別企業がバラバラに動くのではなく、企業同士が強力にコラボレーションして横のつながりを強めていくことが最も重要だと考えています。ウイスキー業界では全国各地で大規模なファンイベントが開催されていますので、私たちがそうした全国のイベントに積極的に出展して、まずは「養父市」という名前を全国の愛好家に覚えていただく。そして「養父に行ってみたい」と実際に足をお運びいただき、そこから但馬全体のファンになっていただくような、地域のハブとしての役割を果たしていきたいと考えています。
人口減少という構造的な課題に対しては、地域の外からいかにお金を呼び込み、その資金を地域内で循環させていくかが活性化の現実的な答えになります。弊社直売店のデータを見ると、試飲をして最後にお酒を購入する決定権を持っているお客様の実に9割が「女性」です。芸術文化観光専門職大学の学生さんも8割以上が女性ですが、若い女性の感性や視点、高いデザイン力を商品開発や企画に取り入れることが、日本酒のような伝統産業を現代に合わせてアップデートする推進力になっています。専門職大学の定員が増え、優秀な若者がこの地に残って挑戦を続ける未来に強く期待しています。
豊岡演劇祭の最大の素晴らしさは、市町の垣根を取り払い、「面」として一体となって地域をプロモーションしている点にあります。自然の美しさや食の美味しさは日本全国の地域に存在しますが、他地域との決定的な差別化を生み出すのは、そこで暮らし、挑戦している「人」の存在です。例えば4年前までウイスキー造りの経験がなかった勝本様が情熱で立ち上げたエピソード、あるいはカニの解禁に合わせて新酒を仕込む香住鶴様の粋なこだわりなど、他にはないユニークな「人」の物語こそが最大のコンテンツになります。「あの人に会いに行きたい」「あの人が造るお酒を飲みたい」という関係人口を増やし、ファン層の裾野を広げていくことこそが持続可能な地域づくりの確実な第一歩になると確信しています。
地域の工場や歴史を公開する「産業観光」の現場では、見学者から「すごい技術ですね」と褒められることで、職人や社員の方々が自分の仕事に強い誇りを持ち、離職率が劇的に下がるという現象が起きています。これは地域づくりにとっても同じです。演劇祭や観光を通じて地域外から多くの人が訪れ、「但馬って本当に素晴らしいね」と称賛されることで、地元に住む人々や子どもたちが自分の生まれ育ったまちに深い誇りと愛着を持てるようになります。
演劇というフックと地域の魅力を掛け合わせることで、但馬にはまだまだ大きな伸び代があると確信しました。多様なキーパーソンや地域の皆様と連携し、さらに面白い但馬を共に創り出していきましょう。本日はありがとうございました。
9月12日(土)に但馬空港で開催された「豊岡演劇祭 前夜祭」では、さまざまなセッションの他、屋外でもイベントが開催され、大きな盛り上がりを見せました。

<パネリスト>
養父蒸溜所 工場長:勝本 隆昭
香住鶴 代表取締役:福本 和広
フェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクト マーケティング部長:中本 陽子
芸術文化観光専門職大学 助教:安藤 竜
<ファシリテーター>
神戸新聞社 DX推進局 局長:藤原 学
(敬称略)
フェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクト
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